また近所のトメさんがやって来ました。
トメさんはこの辺の事情通です。どこの家の猫が子猫を産んだとか、どこそこのおばあさんは入院しているとか、隣の町内の何とかさんは出戻りだとか、何でも知っています。 そのトメさんが、心痛な顔をしているのです。
「トメさん、どうした?」
「ナオじいさん、この世には神も仏も無いのかと思ったよ。」
「どう云う事なんだ。」
「横町の村岡さんの奥さんが亡くなったんだ。」
「あんな良い人はいないよ。いつも愛想は良いし、俺みたいな半端者にも気軽に声を掛けてくれるし。里子といって自分が産んだ子でもないのに育てているし。」
「あの人の悪口を云う人なんかいないよ。」
「そうだな、私も噂は聞いているが、誉める人ばかりだな。」
「そうですよ、世の中は不公平だ、あんな良い奥さんが早く死んで、悪い事をしている人間が長生きしているんだから。」
「でもな、神様は心通りの守護をしていると仰る。これは間違いのない事だ。」
「教祖のお話に、
『どんな新建ちの家でもな、しかも、中に入らんように隙間に目張りしてあってもな、十日も二十日も掃除せなんだら、畳の上に字が書ける程の埃が積もるのやで。鏡にシミあるやろ。大きな埃やったら目につくよってに、掃除するやろ。小さな埃は、目につかんよってに、放っておくやろ。その小さな埃が沁み込んで、鏡にシミが出来るのやで。』
と、ある。人間の心も、あの人は悪い心は一つもない、と云っても、目に付かないような小さな不足や、ねたみや、うらみ、はらだちが無いとは言い切れない。」
「その奥さんも少しはほこりのような悪い心があったのかもしれない。これは神様にしか分からない事だが。」
「でも、良い事をした種は必ず神様は受け取って下さるから、来世はもっと素晴らしい人になって生まれ替わってくるのじゃないかな。」
「そうですか!これで胸がすっきりしました。さいなら。」
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