倍の力

 今日は日曜日です。近くからにぎやかな音楽が聞こえてきました。

「そうか、中学校の運動会か!」

 そうです、今日は油山中学校の運動会です。

 油山中学校には孫娘の直子さんが先生として働いています。

「直子も今日は大変だろうな。小さい時から身体が弱く運動は苦手だったからな。」

 その直子さんが夕方やって来ました。

「おじいちゃん、お元気?」

「直子か、わしは元気だよ。おまえはどうなんだ?」

 直子さんは困ったことがあれば、おじいちゃんに相談に来ます。今日もそうなのでしょうか。

「おじいちゃん、今日は大変だったのよ。私、運動会の進行係をまかされちゃって。いつもは男の先生がやるんだけど、校長先生が『山本君、今年は君が進行係をやってくれませんか』と言うのよ。」

 直子さんは結婚して苗字が山本になったのです。

 進行係は、大変な仕事です。競技をスムーズに行わせるために、備品の準備が出来ているか、子供たちは揃っているか、先生たちの配置は良いか、などなど確認のために走り回らなければなりません。

「私は、こんな大任は無理です、とお断りしたのよ。でも、校長先生が『君なら大丈夫』と言って聞かないので、とうとう引きうけてしまったの。」

「この時私が思ったのは、おじいちゃんからいつも言われていた、女はハイという素直な心が大事だよ、という言葉なの。それで、校長先生の言葉も素直に受けることにしたの。」

「そうしたら、今日は目が回るほど忙しかったけど、何事もなく、また不思議なほど元気に仕事が出来たの。」

「そうだろう、おじいちゃんの云う通りだろ。校長先生と言えば親も同じなんだ。親の言う事を素直に聞けば、神様は倍の力を出してくれて、直子も普段出来ない事も出来るようになったんだよ。」

「本当にその通りね。」

 直子さんは納得した運動会でした。