今日は二十数年も絶縁状態だった、ナオじいちゃんの末の息子さんがやって来ました。一流会社の部長を勤めていますが、人を見下すような態度をナオじいちゃんはあまり好きではありません。
「正直、元気だったか。」
息子さんは正直と書いて「まさなお」と言います。
「親父は元気か。」
「わしはいたって元気だ。ところで何の用事あって来たんだ?」
「たまには親父の顔でも見ようかと思って来た。」
「そんな殊勝なお前じゃないだろう。何か困り事でもあったか?」
「さすが親父には嘘は付けないな。実はリストラに遭いそうなんだ。」
不況の影響はナオじいちゃんの周りまでやって来たのです。
「今までさんざん会社に尽くしてきたのに、裏切られた気がするよ。」
「本当にそうかな。会社に尽くしてきたと言うけど、自分の出世の為に仕事をしてきたのじゃないか?」
「おやさまは、『働くというのは、はたはたの者を楽にするから、はたらく(側楽・ハタラク)と言うのや。』と仰った。周りの人に喜んでもらうにはどうしたら良いかを考えて仕事をするのが働く事なんだ。」
「商売をやっている人は、買う人が喜ぶようなものを売る。作物を作っている人は、食べる人が美味しいと言ってくれる物を作る。これが働く事なんだ。」
「また、おやさまは、『同じ働きをしても、蔭日向なく自分の事と思うて働くから、あの人は如才ない人であるから、あの人を傭うというようになってくる。こうなってくると、何んぼでも仕事がある。』とも仰っている。」
「そういえば人を喜ばすどころか、人を押しのけてでも仕事をしてきたかもしれない。」「順調な時には分からない事が、苦境に立って初めて見えるものがあるものだ。」
「俺もおやさまの言葉をかみしめて、これからの人生を考えなくちゃな。」
「親父、ありがとう。」
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