「ナオじいちゃん、ちょっと話を聞いてくれよ!」
隣のトメさんがやって来ました。
「なんだい」
「仕事仲間の源吉が癌で死んじまったんだ」
「半年前まではピンピンしてたのに、腹具合が悪いと言って入院したらあれよあれよと云う間に痩せてしまって、胃癌で後二三ヶ月の命と云うじゃないか」
「この前見舞いに行ったら、意外と元気なのでホッとしたんだけど、一昨日亡くなっちまった」
「そうか、それはご愁傷様」
「お悔やみに行ったら嫁さんが言ってたけど、痛みで随分苦しんだそうなんだ。だから俺はそんな死に方じゃなくて、ぽっくり逝きたいもんだ」
「今は癌の治療も進んでいて、生存率も高くなってきたようだが、末期の癌はなかなか治らない」
「だから、通常の癌治療と同時に緩和ケアと云って痛みや苦しみを和らげる治療を行うところが多くなってきている」
「へえ、そうなんですか」
「でも、病院や医者の考え方によって治療の方法にはまだまだ違いがあるから、一つの病院だけでなくセカンドオピニオンという他の医者の意見も聞く事が良いんだ」
「ところで、トメさんはぽっくり逝きたいと言っていたが、それも一つの出直しの方法だが、こういう話がある」
「出直しは四十日の患いが良い、と言うのだ」
「人間は生まれてから此の方、少しずつ心のほこりを積んできている。そのほこりを来生に持ち越さないように、今生で病んで果たして逝く」
「また、世話になった人にはお礼を言い、後に残る人には伝える事を伝え、皆にサヨナラと言って出直していく」
「わしの親父のようにぽっくり逝ったら、後に残された者が困るんだ。そのお蔭でわしがどんなに苦労したことか」
「でも、世の中そんなに上手く行かない。寝たきりになったり、認知症になったり、廻りの者に迷惑をかけることが多いのが常だ」
「その点、癌はありがたい。出直す直前までは意識もはっきりしているから、出直すまでに色々な事が出来る」
「へえ、そんなものですかね」
「要は考え方次第なんだ、悪いことが悪いんじゃない、良いことが良いんじゃない」
「???????」
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