孫娘の直子さんが浮かない顔をしてやって来ました。
「ナオじいちゃん、今習字を習っているんだけど、毎日毎日同じ字ばかり書かされて前に進まないので止めようかと思っているの、どう思う?」
「わしは習字の事は知らんけど、同じ字を繰り返し書くことには何か理由があるんじゃないかな」
「でも、他の人は新しい課題を与えられて、どんどん前に進んでいるのに、私だけは同じことの繰り返しなの」
「それって変じゃない?」
「プロ野球の一流選手は一日に数百回は素振りをする、と云うが何故だか知っているかな?」
「何故なの」
「それは、バットを振る型を作るというか、基本を作る、頭で考えてバットを振るのじゃなく、身体に覚えさせる、という事なんだな」
「きちんとバットを振ることを身体が覚えたら、どんな変化球が来ても、自分のタイミングでバットを振ることが出来、ヒットにつながるんだよ」
「ホームランの世界記録を持っている王さんは、畳が擦り切れるまで素振りをしたという逸話がある」
「王さんは一本足打法だが、これはタイミングを狂わせられ易いので、人一倍素振りをしたそうだ。それでホームランをあんなに打つ事が出来たんだと思うな」
「野球だけじゃなくて、どんなことでも続けるという事は大事なことだ」
「おまえのお父さんは毎日会社に行って仕事をしているだろう。営業マンだから毎日外に出て会社の製品を売りに歩いているんだ」
「毎日歩いたってなかなか売れるものじゃない、たまには休みたくなることもあるだろう、止めたくなることもあるだろう」
「でも休まずに、止めずに毎日歩いているんだ」
「何でそんな無駄なことをしなけりゃならないの」
「それは一見無駄なように見えるけど、無駄ではないからさ」
「毎日お客様の所へ行って話をする、その時は買ってもらえなくても、何かの時にふっと思い出してもらい、買ってくれる時があるものだ」
「昔から商売の事をあきないと言ったものだ。それは毎日飽きずにくからあきないと言い、それが商売のコツなんだ」
「つと云うのは切ると云う意味がある。つとめとは切ることを止める、つまりつなぐ、続けるという意味だ。だから会社に行くことをおつとめに行くと云うだろう」
「へえ!そうなんだ」
「だから、習字もあきずに続けて行くことが大事なんだよ」
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