聞こえて良かった

 ハルさんは最近耳が遠くなってきました。テレビの音が聞こえないためか音量を上げて見ています。他の人にとっては騒音です。私があまりうるさく言うものだから、音量は普通にしていますが、「今なんて言ったの」と私に聞いてきます。これが頻繁にあるものだから、こちらはゆっくりテレビも見ていられません。

 

 ハルさんの孫が時々遊びに来ます。この前、孫のミーちゃんが「おじちゃん、おばあちゃんを叱らないで」と私に言います。私は叱っているつもりはなかったのですが、ハルさんと話す時は自然と声が大きくなるので、叱っていると勘違いしたのでしょう。

 

 ハルさんの旦那様はナオさんと言います。もう出直しされましたが、ナオさんも晩年は耳が遠くて、会話をしてもとんちんかんな事を言うことがありました。耳が聞こえないのは本人にとっては困ることだろうと思っていたら、実はそうでもないらしく、補聴器を勧めても要らないと言います。

 

 ある時、ナオさんと同じ仲間の人が、「あなたのお父さんは耳が遠くて、会議でも話が聞こえていないようで、困っている」と私に話されました。周りの人が困っているのに、本人は困っていないらしいのです。ナオさんはいつも本を携えていて、すぐ本の世界に入ってしまいます。

 

 この世知辛い世の中で、耳が聞こえなければ、悪いニュースも嫌な事も聞かなくて済む、と云う考え方もありますが、教祖はこのように話されたそうです。

 

 「嫌な物を見、嫌な事を聞くと、人間は直ぐ嫌やなあと思う。その心がいかんのや。嫌な物を見、嫌な事を聞いても、ああよく見える、よく聞こえると、思わにゃならん。その心が守護頂ける道になるのやで、むずかしい事ないで」

 

 テレビの音を自分の近くで聞くことの出来る装置を付けました。ハルさんは、「ああ!これで良く聞こえる」と好きな番組を楽しんでいます。